自分の創造力を信じている”クリエイター”は多い。だが、他人の創造力を信じる”クリエイター”は果たしてどれくらいの人数がいるだろうか。
広告業界、特にコピーライターの世界で言えば、みんな自分の案を通すことに苦心し、広告賞を受賞して権威を我が物にしようともがきつづけている。「自分のアイデア」にこだわるのだ。(売上への貢献に厳しくなってきた今、クリエイティブにこだわり続けられない業界になっているのも現実だろうけど。)
『動機のデザイン』著者の由井真波さんは、すべての人間の創造力を信じている。そして、創造すること自体がもたらす喜びを(権威ではない)、信じている。
著者はデザインを3つに分けて説明する。
①カタチのデザイン
②価値のデザイン
③動機のデザイン
カタチのデザインとは、制作物のこと。商品パッケージや、webサイトのことだ。
価値のデザインとは、課題を特定し、解決するための手段を構築すること。なぜ、その制作物を作るのか?という前段階のデザインのことだ。
そして、「動機のデザイン」は、由井さん独自の考え方。現場にいる人たち(実際に困っている人たち)が、自分自身の創造力を発揮することで課題の解決に導く設計をすること。カタチのデザインと価値のデザインと同時並行的に行うデザインのことだ。
なぜ著者は「動機のデザイン」を試行錯誤しているのか。それは、著者に限らず、デザイナーたちが広く抱える悩みを、誰よりも真剣に見つけたからだ。
デザインしたあと、現場は変われているだろうか?
何かの課題を解決するために、デザイナーたちはデザインを頼まれる。デザイナーはデザインを納品する。しかし現実には、納品したあとのデザインが上手く活用されないなど、作っただけで終わることも多いのだ。
著者はその原因を、現場の人たちが「主体者」になりきれていないからだ、と考えた。実際に困っている現場の人たちが、「主体者」になることで、デザインが形作られたあとも、そのデザインは機能し続けていく。
この本には、動機のデザインの具体的なステップが書かれている。実用書として読むと役に立つのは間違いない。
でも、ぜひデザイナーだけではなく、コピーライターも、誰かと何かを創る人たちすべてにも読んでほしい。
なぜなら、この本はデザインの方法ではなく、「創造すること」自体に向き合っているからだ。
著者は自らのことを「無名のデザイナー」と呼ぶ。しかし私には、誰よりも「創造すること」自体を信じる「ホンモノのデザイナー」だとしか思えなかった。
【書籍情報】
タイトル:『動機のデザイン — 現場の人とデザイナーがいっしょに歩む共創のプロセス』
著者: 由井 真波
発行: ビー・エヌ・エヌ(BNN)(2022年06月15日発行)
定価:2,640円(税込)
ISBN:978-4-8025-1232-9