ゲームのキャッチコピー制作マニュアル

知人がインディーゲームを作るというので、キャッチコピー制作のお手伝いをした。普段はコピーライターとして新聞広告、電車広告、ポスターなどのグラフィック制作をお手伝いしているが、ゲームのジャンルに関わったことはない。

ゲームのキャッチコピーを制作する上で、名作タイトルたちのキャッチコピーを分析し、どう考えればいいのかを自分なりに考えてから、コピーを提案した。

知人から聞くところによると、インディーゲームを制作する人たちは増えているし、ポスターをきちんと作ることは会場でターゲットに目に留めてもらうためには重要だという。でも、コンテンツに全力だからこそ、広告にまでお金を支払うことは難しい。ならば、インディーゲーム制作者たちが、納得できるキャッチコピーも自力で作れるようになればいい。

普段インディーゲームを楽しませてもらっている身として、何か力になれないか。そう考えて、ゲームのキャッチコピーを制作する上で学んだことを、【キャッチコピー制作マニュアル】のような形で公開することにした。活用していただけたら嬉しいです。

人はなぜゲームで遊ぶのか?

キャッチコピーは「なんかいい言葉」ではない。一言で、そのゲームで遊ぶ理由を作り、遊びたい!と感情を動かさなければいけない。

なので、そもそも「人はなぜゲームで遊ぶのか?」と言う根本的な問いからスタートする必要がある。私はこのように考えた。

現実では不可能な体験=「世界観/物語」+システム・ルール

そりゃそうだという結論かもしれないが、ゲームは「現実では不可能な体験」をするために遊ぶ。そしてゲームには、独自の体験をさせるために大きく二つの要素がある。「世界観/物語」と「システム・ルール」だ。

何を伝えればいいの?

現実でも、他のゲームでも体験できないことを伝える。

あなたの制作するゲームの強みは、どこにあるだろうか? 強みというのは、「現実でも、他のゲームでもできない体験」ことだ。

キャッチコピーは「なんかいい言葉」ではない。

あなたのゲームの「現実でも、他のゲームでもできない体験」を一言で表現する必要がある。

ここまでを頭に入れて、次からはあなたのゲームのキャッチコピーを作っていこう!

STEP1:ゲームに必要な言葉

まずは、名作ゲームのキャッチコピー事例を眺めてみてほしい。

タイトルジャンル(システム)キャッチコピー
ベヨネッタ∞クライマックス・アクション絶頂感が、ブッつづく。
METAL GEAR SOLID ΔTACTICAL ESPIONAGE ACTION任務は、最愛の人を殺すこと。
ニーア オートマタ命もないのに、殺しあう。
俺の屍を超えてゆけ生きる、死ぬ、託す。
かまいたちの夜サウンドノベルあなたのせいで、死体が増える。
トルネコの大冒険1000回遊べるRPG、登場!
クラッシュバンディクー宇宙初の奥スクロールアクションゲーム!

①独自のシステムを伝える「ジャンル名」

②独自の「体験」を表現するキャッチコピー

名作ゲームはこの二つを見事に表現していることがわかる。

あなたのゲームにも、この二つの言葉が必要だ。

STEP2:ジャンル名を作ろう!

まずは、あなたのゲームの「ジャンル名」を的確に言葉にしよう。

ゲームコンセプトを固めた時点である程度出来上がっているかもしれないが、もう一度、点検しよう。私の知人もジャンル名はすでに決まっていたものの、定義は正しいがパッとは伝わらない言葉になっていた。

新しいジャンルのゲームを提案するとき、気をつけなければいけないのは、全く新しい言葉だけで伝えようとしないこと。

既存ジャンルの言葉+要素の追加・変更=新しいジャンル名

RPG+1000回遊べる=1000回遊べるRPG
スクロールアクション+奥=奥スクロールアクション

全くの新しい造語を作り上げるのではなくて、既存のものを一部ズラすと、新しく見えるし、感覚的に一瞬で伝えることができる。

もしもあなたのゲームが、トルネコの大冒険や、クラッシュバンディクーほどの全く新しいシステムを備えている場合は、ジャンル名をキャッチコピーにしてもいいことがわかるだろう。

もちろん、全てのゲームが新しいジャンル名を作り上げなくてもいい。

かまいたちの夜も「サウンドノベル」だ。システム以外の要素が強みのゲームは、キャッチコピーを頑張ればいい。

STEP3:キャッチコピーを作ろう【罠篇】

次は、いよいよ「キャッチコピー」に取り掛かろう。

でもその前に、キャッチコピーを制作する上で、陥りがちな罠を説明させてほしい。

例として「ベヨネッタ」のキャッチコピーを、AIに作ってもらった。AIは罠にうまく引っかかってくれるのでいいお手本になるからだ。

Geminiは次のように回答してくれた。

王道・キャラクターの核心を突く

  • 「愛でるは死、戯れるは絶望。」
  • 「美しき魔女に、慈悲などない。」
  • 「踊るように、すべてを葬る。」

スタイリッシュ・アクション性を強調

  • 「弾丸とヒールで、運命を蹂躙せよ。」
  • 「スタイリッシュに、最高に残酷に。」
  • 「退屈な世界を、華麗にぶち壊せ。」

挑発的・悪魔的な魅力

  • 「禁断の果実より、甘美で危険。」
  • 「跪きなさい。それが、あなたの最後の仕事よ。」
  • 「神さえも支配する、魔女の嗜み。」

あなたはどのキャッチコピーを選ぶだろうか。好みの差はあるが、きっとこの中で選ばれがちなのはこれだ。

「弾丸とヒールで、運命を蹂躙せよ。」

でも、実際には、

「絶頂感が、ブッつづく。」

が使用された。なぜか?

「蹂躙」はアクションを説明し、「弾丸とヒール」で世界観/物語を説明できている。

でも考えてみてほしい。アクションであることは、ジャンル名「∞クライマックス・アクション」で説明できているし、世界観/物語はビジュアルで説明できている。キャッチコピーでも説明する必要はないのだ。

STEP2で、まず「ジャンル名」を作ってもらった理由もここにある。どのようなゲームか一言で伝えられる「ジャンル名」はすでに作ったのだから、キャッチコピーでは「説明脳」を捨てていこう!

STEP4:キャッチコピーを作ろう【体験を目指せ!篇】

キャッチコピーでゲーマーたちに伝えなければならないのは、「独自の体験」だ。いや、これもまた正しくないだろう。

ゲームのキャッチコピーを考える上で大事なのは、言葉でゲーム設定を「伝えよう」とするのではない。

言葉でゲームを「体験」させることを目指そう!

名作ゲームのキャッチコピーをもう一度、眺め返してみてほしい。

設定がわかるというよりは、ある「感情」湧いてくる感覚になるのではないか。

タイトルキャッチコピー感情
ベヨネッタ絶頂感が、ブッつづく。高揚
METAL GEAR SOLID Δ任務は、最愛の人を殺すこと。葛藤
ニーア オートマタ命もないのに、殺しあう。虚無
俺の屍を超えてゆけ生きる、死ぬ、託す。悲哀と誇り
かまいたちの夜あなたのせいで、死体が増える。戦慄

そしてこの感情は、きっとゲーム体験の核をなすものだ。

あなたのゲーム体験の核をなす感情は、なんだろう?

まずは感情を突き止めてみよう。

STEP5:キャッチコピーを作ろう【強みを一つに絞ろう篇】

いよいよ終盤だ。あと少し!

感情を見つけたあとは、強みも一つに絞ってしまおう。

名作ゲームのキャッチコピーをよく読むと、大きく三つの強みをもとにしたキャッチコピーであることに気がつくだろうか。

A:感情(ベヨネッタ)

B:物語/世界観(METAL GEAR SOLID Δ、ニーア オートマタ、かまいたちの夜)

C:システム(俺の屍を超えてゆけ、トルネコの大冒険、クラッシュバンディクー)

あなたのゲームの強みは、全部。という気持ちもわかるけれど、あえて一つに絞るならA、B、Cのどれだろう?

一つに絞った後は、あなたゲームの強みを出発点にして、「感情」を体験させるキャッチコピーを書けばいい。

そして大変残念なのだけれど、ここから先は、論理的に突き詰めるのは難しく、とにかく書いてみるしかない。でも、なにも決めずにキャッチコピーを書くよりは大幅に近道ができていると思う。

STEP6:キャッチコピーを作ろう【生成AI篇】

書くしかない。と言ったけど、それはプロのコピーライターの話だ。

初心者は生成AIを使用してもいい。というか、もう生成AIを使用しても大丈夫だ。キャッチコピーを選ぶための考え方は、あなたに身についている。

ここまでの記事を読ませて、Geminiにプロンプトを作ってもらった。

# あなたの役割
あなたは、人々の心を動かし、一瞬でゲームの虜にさせる凄腕のコピーライターです。

# プロンプトの目的
[ゲームタイトル] のキャッチコピーを作成してください。
「説明」を捨て、プレイヤーがそのゲームを遊んだ時に得られる「独自の体験(感情)」を一言で表現することがゴールです。

# ゲームの情報
- タイトル:[ゲームタイトル]
- ジャンル名:[既存のジャンル + 独自の要素。例:1000回遊べるRPG]
- ゲームの核心(強み):[現実でも、他のゲームでもできない独自の体験。例:ハイスピードな空中戦での圧倒的自己肯定感]
- プレイヤーに感じてほしい感情:[例:高揚感、戦慄、切なさ、達成感]

# キャッチコピー制作のルール(厳守)
1. 広告として「ゲーム内容の説明」を羅列するのはNGです。それはすでにジャンル名やこのプロンプトで理解しています。
2. 読んだ瞬間に、ゲームをプレイした時の「感情」が脳内に直接湧き上がるような言葉を選んでください。
3. 抽象的すぎず、かつ説明的ではない、エッジの効いたコピーを提案してください。
4. 5〜15文字程度で、リズム感を意識した言葉にしてください。

# 出力形式
- 感情に訴えるコピーを、テイストを変えて5つ提案してください。

【ゲームタイトル】、【ジャンル名】【強み】【感情】を入力すれば、感情を動かすようなそこそこのキャッチコピーを提案してくれる。

ゲームの具体的な情報を入力しなくても良いのか?と疑問に思った人もいるだろう。でも、不必要だ。情報を入れすぎると、生成AIも「説明的」なキャッチコピーを作ってしまう。

限られた4つの要素を入れることで、情報の絞られたキャッチコピーが生み出される。

生成AIと相談しながら決めていくのも、一つの手だと思う。ぜひ活用してみてほしい。

(ゲーム制作者のみなさんの方が、もっといい使い方を思いつくかもしれませんね。)

STEP7:番外編

試しに、Geminiに架空のインディーゲームのコンセプトを考えてもらった上で、Claudeでキャッチコピーを生成してもらった。

↓架空ゲームのコンセプト

タイトル
『湯気とモザイク(Steam & Mosaic)』

コンセプト
「失われた絵を、静寂の中で取り戻す」
かつて誰かの疲れを癒やした古い銭湯。壁のタイルは剥がれ落ち、かつて美しかった巨大な富士山の絵は無残な姿に。プレイヤーは職人となり、手元にある数千枚のタイルをパズルのように組み合わせ、その壁画を修復していきます。
複雑な操作は不要。タイルの色を合わせ、隙間を埋め、最後に浴槽に一番風呂を張る。ただそれだけの、没入感のある「修復シミュレーション」です。

↓claudeへの出力プロンプト

# あなたの役割
あなたは、人々の心を動かし、一瞬でゲームの虜にさせる凄腕のコピーライターです。
# プロンプトの目的
[ゲームタイトル] のキャッチコピーを作成してください。
「説明」を捨て、プレイヤーがそのゲームを遊んだ時に得られる「独自の体験(感情)」を一言で表現することがゴールです。
# ゲームの情報
- タイトル:[湯気とモザイク]
- ジャンル名:[修復パズル・シミュレーター]
- ゲームの核心(強み):[崩れた景色を指先で直すほどに、現実の喧騒から遠ざかり、自分の鼓動さえ静まるような『没入型・動的瞑想』の体験]
- プレイヤーに感じてほしい感情:[整う]
# キャッチコピー制作のルール(厳守)
1. 「ゲーム内容(世界観の設定や操作方法)」の説明は一切不要です。それはすでにジャンル名やビジュアルで伝わります。
2. 読んだ瞬間に、ゲームをプレイした時の「感情」が脳内に直接湧き上がるような言葉を選んでください。
3. 抽象的すぎず、かつ説明的ではない、エッジの効いたコピーを提案してください。
4. 5〜15文字程度で、リズム感を意識した言葉にしてください。
# 出力形式
- 感情に訴えるコピーを、テイストを変えて5つ提案してください。

↓出力されたキャッチコピー

① 静寂系 ── 余白の美学
直す手が、静まる。

② 対比系 ── 世界との落差
世界が煩いほど、指先が澄む。

③ 身体感覚系 ── 生理的な「整う」
鼓動が、揃っていく。

④ 禅・瞑想系 ── 無意識の没入
考える前に、整っている。

⑤ 逆説系 ── 壊れているから完成する
崩れていたことを、忘れるほどに。

感動!というほどではないが、キャッチコピーを考える上での第一歩目は提示してくれる印象だ。

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キャッチコピーをお手伝いしたのは、こちらのゲーム。

https://store.steampowered.com/app/3632020/Voyage_Router/?l=japanese

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