この本の一行目は、※から始まる。
※本書収録の小説は、アニメ『耳をすませば』の内容に多くを負っています。
青木淳悟『憧れの世界ーー翻案小説を書く』
そう。サブタイトルにも書かれているように、この小説は『耳をすませば』の「翻案小説」なのだ。
いや、小説とも言い切りがたい。
この本は、①『耳をすませば』と作者の歴史&小説執筆のねらい、②翻案小説の中編「憧れの世界」、③翻案小説の短編「私、高校には行かない。」、④小説の失敗・反省点の作者解説、と構成されている。
もちろん②、③の小説も面白い(や、面白い面白くないで片付けないためにみんなは言葉を尽くしているのは知りつつも、やっぱり面白い面白くないは大事だしこう書いちゃう)し、でも全体を読めば小説を読む以上の体験ができた感覚がある。
この本は「書くことへの挑戦と記録」だと僕は受けとったし、作者も次のように書いている。
方法論や小説指南というわけではなくて、本書で示したいのはあくまで経験と実例(プロセスと実践)だけなのだ。
青木淳悟『憧れの世界ーー翻案小説を書く』
そもそも翻案小説とは、なんぞや?という人も多いのではないか。
AIに聞いてみると次のような回答だった。
翻案小説(ほんあんしょうせつ)は、既存の作品(原作)の主要なストーリーや筋書きを保ちつつ、時代、舞台、登場人物などを変更し、新たな作品として書き改めた文学作品です。
うん。なるほどです。
僕が「翻案小説」への意識を持ったのは、後藤明生という小説家がきっかけだった。
たぶん小説が好きな人しか、彼の名前を聞いたことのある人は少ないだろうけれど、僕はそれも悔しい!
後藤明生さんの有名な発言に「なぜ小説を書きたいと思うのか?それは小説を読んだからだ」というものがある。彼は「小説は何処から来たのか?」という本で、いかに小説が既存の小説・物語を下敷きにしているのかを説き、小説の歴史までを語ってくれていて、僕はこの本を何度も読み返しては参考にして読む本を選定したり、実作に生かそうともがいていたりする。後藤明生に触れてから、すべての小説は「翻案的」という潔い態度で、読書をしている気がする。そしてこの段落は脱線しすぎだと気付いたので、本筋に戻ります。
『耳をすませば』は、作者ほどではないが僕も大好きだ。いや、正確には「だった」。(青木さんはバックグラウンドアニメとして、一年間で三百回再生したらしいけど)幼稚園生のとき、僕は『となりのトトロ』でもなく、『魔女の宅急便』でもなく、『耳をすませば』を1日に何度も見るほどハマっていた時期があるし、成長してもやはり『耳をすませば』が大好きだった。青春に憧れていた少年はしかしその後、不幸にも男子中・高に進学し帰宅部になるのだからほんとに哀れだし、それにこの話も脱線だ。
上で書いた通り、この本には二つの小説が収められている。僕は「憧れの世界」の方を楽しく読んだ。楽しく読んだというよりは、楽しもうとして読んだら楽しめた。回りくどい言い方だけど、この小説はそれほどに読みにくい。
例えば、名詞の羅列だったり体言止めといった、ブツ切り感のある描写が続く。
中低層のビルが周辺に寄り集まっていて、とりわけネオンや照明の明るみでぼうっとしている、比較的人通りの多い商業地の街頭。そこがいわゆる駅前商店街なのか繁華街なのか判断しにくいーー遊興施設としてパチンコ屋くらいはあるようだが。その駅近くの身近なまちのコンビニエンスストアに、いま一人の少女がいる。
青木淳悟『憧れの世界ーー翻案小説を書く』
「語り手」が物語に対してこの距離感を保ったまま話が進むので、読みにくいし、「語り手」を捉えにくい。この「語り手」って、一体誰なの? 全知全能の神っぽくもないし、物語の登場人物の誰かではもちろんない・・・。と悩みながら読み進めていった。
そしてやっと、次の描写に行き当たり理解する。
授業中のようなアングル。
青木淳悟『憧れの世界ーー翻案小説を書く』
「アングル」だなんて書いちゃうの? あ、そっか! この「語り手」は、『「耳をすませばの翻案アニメ」をスクリーンで見ている「観客」』なんだ!
演劇ではステージと座席の間の透明な壁のことを「第四の壁」と呼ぶ。なるほどこの小説がやっているのは、さらにもうひとつ透明な壁「第五の壁」をつくって物語を語ろうとしているんだ!と、気が付いてからは、とても楽しく読み進められた。こんな試みをしている小説を僕はまだ知らない。
もちろん「語り」だけではなくて、ジブリの他作品のパロディ要素だったり、大胆な改変だったりも楽しいので、『耳をすませば』をどう小説に持って来たんだろう?という視点でぜひ読んでみてほしい。
noteで①のエッセイを無料で読めるみたい! このエッセイは素直に笑えちゃうのでぜひ!
【書籍情報】
タイトル:『憧れの世界 ――翻案小説を書く』
著者: 青木 淳悟
発行: 代わりに読む人(2024年12月20日 初版発行)
定価: 2,530円(本体2,300円+税)
ISBN: 978-4-9910743-7-0
